ISM |
|
| 私は恐る恐る黒い粉末を指先にとり、そっと口へもっていった。 ざらつく舌の感触が右手の人差し指をつつみ、やがて唾液で湿っていく。 この黒い粉末・・・どこかで・・・・
「おい、何してる」
私が目線をあげようとした瞬間にはもう頭を押さえつけられていた。 その時に私の頭がベルトコンベアーの淵にぶつかったらしく、 静かなその場所に異様な大きさで衝撃音が響き渡り、激痛がこめかみあたりを走り抜けた。 私の右側の侍は、こちらを見るわけでもなくただただひたすらに作業を続けていた。 私の頭の中では、この作業場に連れて来られた人間は、何らかの共通項を持ち合わせ、お互いがお互いの存在に気付きながら、一種の遠慮のようなものが働いており、空間的には開放されていても、意識のレベルで遮断されている。にもかかわらず、その共通項というものによる仲間意識が存在していると思っていたのだが、私がこんな目にあいながらも助けてくれもせず、否、はじめから私のことなど興味がなかったかのように見向きもせず、自分に与えられた作業だけをこなしている。 私の目の前をベルトコンベアーが通り過ぎていき、黒い粉末が入れられる予定だったものが流れていき、私の左側の人間は緑色の液体を数滴いれていた。 おそらく黒い粉末が入っているかいないかは関係なく、何かを作るための作業というわけではないのだ。 自分自身が何をどれだけの分量そこにいれるかということが重要であり、意味があるのだろう。
首を押さえつけられた状況でこれだけ物事を考えられる頭を持ち合わせていることが幸か不幸か。 背中に激痛が走った。
ブゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーン・・・・・ブゥゥゥゥゥゥン・・・ ガタン・・・ガタッ・・・・・・
不愉快な音と振動によって目を覚ました。 自分がいるこの部屋には窓がないらしく、あたりは真っ暗だった。 音と振動だけがある部屋。 自分の体をまさぐってみる・・・服を着ていない・・・ おそらくこの部屋は、現在の自分が自分として確立されてから二回目だった。 今回は記憶があるのだ、といってもほんの数時間分くらいしかない、否、あの時ですでに数日経っていたかもしれない。 とにかく光のささない場所だとどれくらいの時間が経過したのかがまったく分からないのだ。 ただ腹は減っている。 頭はまだ痛みを覚えていた。 そうだ、最後の記憶、今目覚める前の、本当の直前の記憶は背中の痛みだった。 私はあの時感じた場所を手の届く限り探した。が、頭の痛みばかりが気になって、背中なぞどうでもよくなってきた。
ひょっとしたら、最初にここで目覚める前も同じようなことがあったのだろうか。それが何かの拍子で記憶を失くしているように思っているだけで、実は同じ場所で同じことをただ繰り返しているだけなのではないか。 あのベルトコンベアーの作業のように、私自身が同じところをぐるぐるまわっているだけなのではないだろうか。 しかし、それだったら今回も記憶を失くしていなければならないのに、私は覚えている。 ということは今回は特別なのかしらん・・・例外として。 もしくはそんなのはただの思い過ごして、これからしばらくしたらまたベルとコンベアーのところに戻って、あの侍の横でただ黒い粉末を入れる作業をひたすらさせられるのか。 だが侍は私に声一つかけてはくれないだろう。 彼はそういうやつなのだ。
| |
|
4月25日(火)22:19 | トラックバック(0) | コメント(0) | THE TALE OF... | 管理
|