第三話 |
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| 死神は確実に勇貴に近づいてきた。 日に日に体力が低下し、自分で自分の首を支えることもできなくなり、ゼーゼーと呼吸をしながら頭を常にどこかへもたれかからせている。 何を見ているのか、見えているのかもわからない。既に目の焦点があわなくなってきている。
そんな勇貴の姿を見て、強くあろうとした母は負けた。 自分の息子があとわずかとはいえ、こんなつらそうに生きていくのなら、いっそのこと殺そう。 生きている姿を見るのがつらい。
母は勇貴を病院に連れて行って、勇貴を殺すための手術をたのんだ。 その手術は最後の望みでもあった。 奇跡が起こり、手術が成功したら万々歳。ただし奇跡が起こる確率は一割にも満たなかった。
病院としても、助からない患者を見捨てるよりも手術中に死んだとするほうが体も保てると考えた。
母は莫大な費用をかけて勇貴を殺そうとした。 殺すと言えば言葉が悪くなってしまうが、苦しみから勇貴を救ってやりたかっただけなのだ。 ただ、その方法は苦しみの原因を取り除くのではなく、苦しみをかかえている、そのものを消すしかなかったのだ。
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10月23日(日)12:23 | トラックバック(0) | コメント(0) | THE TALE OF... | 管理
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